HotNews

土竜と狸のしっぽり放談


いけばな超ド素人のモグラ(本誌発行人)とタヌキ(本誌アートディレクター)が、華道といけばなに関する素朴な疑問や感想を、知ったかぶって語ります。
まずは、いけばなの体験レッスンを受けたモグラの話からスタート!

タヌキ(以下T)早速ですけど、体験レッスン、どうでしたか?
モグラ(以下M)各流派にそれぞれの型があるんですけど、基本的な考え方は一緒だと思うんです。というか、そう感じました。 ただ、用意された花が僕の好みではなかったというのと、選べる花が少なすぎて。そういうもんみたいだけど。想像してたのと違って、もっと選べるのかと思ってた。それが残念だったかな。 すごいなと思ったのは、僕が作ったものに先生が手を加えると、劇的に変わるっていうマジックがあるんですよ。先生がちょっといじっただけで、すごくよくなるんです。そういうわけで、 結論から言うと面白かったっす。またやってみたいなと思いましたよ。
よかったですね。
正直、素人からすると、実際どこも変わらないですよね。オマエが言うなって話ですけど(笑)。
それは、体験レッスンしか受けてないからじゃないですか?
確かに。もっとやらなきゃわからないでしょうけどね。まぁ、最大の感想は営業がすごかったこと(笑)。ほんとにハンパない。レッスン後に「最後にちょっと説明させて頂きますね?」みたいな感じでバッバッバッって説明されて。今入ったら何千円になりますみたいな。
そういうディスカウントもあったりするんですね。
この特集を見て、いけばな「生け花」「活け花」など様々な表記があるが、すべてを平仮名で表記することも多い。
「華道」「花道」についても公的なルールは特になく、同じ流派内でも異なる表記が混在する。
に興味を持つ人は少なからずいると思うんですが習いたいと思う人はどのくらいいるんでしょうね?
それなりにいると思いますよ。誰でも最初は何も知らないところから入りますよね。だからその時の入口として、歴史のあるもののほうが信頼できるじゃないですか。フラワーアレンジメントはいかにも現代的で、気軽に習えるかもしれないけど、端から方向が違うでしょ。
なるほど。
いけばなって、相似した代替文化がないわけですよ。茶道や書道もそうですけど。独特の世界ですよね。
歴史があるからっていうのもありますもんね。
そこで今回のいけばな特集ですよ。三大流派の家元や次期家元の作品が、こういうフラットな紹介のされ方をするってのは本当に珍しいみたいですよ。
どこの流派も、他流と仲が悪いわけではない事情を知らない外部者からすると、伝統文化事業の内部はドロドロしているのでは…と妄想しがち。もちろん実際は、そんなことはないそうです。少なくとも現在の華道界は。んですよね、というのがキーワードですね。過去は熾烈な争いをしていたみたいですが…。

昭和生け花戦国史

僕、いけばな習おうと思ってたんだけど、これ読むとね…。
『華日記』「花へんろ」などで知られる早坂暁によるルポ小説。戦後の華道界の争乱が実名で描かれている。ハナフリ読者は必読!ですね。
これ、戦後復興の話から始まるじゃないですか。戦後から入って、いろんな流派が存在するにあたって、いけばなが世界の懸け橋になることを願う熱い志的な話だと思ったんですけど、いけばなを広めていくにあたって、なんでこんなに燃えてるの?って思ったんすよ。つまりそのモチベーションはどこからくるのかな、と。単純にいけばなを広めるなら、みんなで仲良くやればいいんじゃないの?って思って。で、読み進めているうちに分かってきたんですよ。志の話ではないんだって。
当人たちも途中でシフトしたんでしょうけどね。アーティスト志向なんですよ、みんなね。世界に通じるビジネスとして回そうとする一方、自分の業として、自分にはこれしかないとしていけばなをやっていくと、どうしても他流との意見の食い違いが起きてくるわけですよ。
この本の後半で、蒼風勅使河原蒼風。と亡くなるちょっと前の潮花安達潮花「あだちちょうか」。安達式挿花の創始者。一時は関東の華道界を席巻したが、草月流の台頭によってその座を奪われる。余談だが、ツバキと縁の深い人物でもある。の対談があって―。
なんか三国志みたいだね。
そうそう、だからこれ、サブタイトルが「昭和生け花戦国史」なんですよ。
なるほどね。
ほんとにね、武将同士の争いですよ。いかに陣地を奪うか。国盗り合戦ですよ。
そうだよね。水滸伝のそれですよね、北方謙三の。
なんで北方謙三なんだ(笑)。いや、その対談でね、いけばなについてそれぞれの考え方を話すんですが、やっぱり最後の最後まで両者譲らないんですよ。この二人に限らず、当時はみんなそうだったと思うんですが。
なんでそうなっちゃうんですかね?他流は他流として受け入れて仲良くしたほうが広まりやすいと思うんですけどね。同じ花なんだから。
でも、ならないんですよね。
そういうもんなんですかね。そのモチベーションがすごいよな(笑)。
時代もあると思うんですよ。
古川ロッパの時代?
(笑)。それこそ、戦後からの叩き上げなわけです、みんなね。いくら歴史があるからって、戦争を経て置かれた状況がシビアなことに変わりはなくて。そんな中で、昔の人たち特有の堅気な感じというか、なんとしても譲れない頑固さがあったんだろうと思いますよ。
なるほど。今も若干残ってたりするんだろうけど、理解しがたいよね。話は変わるんですけど、この本、いつ書かれたものなのかなと思ったら。
87年初出ってありましたね。
それって、言っても20年ちょっと前の話っすよね。
そう、意外と新しいんです。

古川ロッパの時代

早坂さんって、時代背景の書き方、すんごいわかりやすいですよね。
そりゃそうです(笑)。
だって古川ロッパもそうだし、この時代の喜劇人みたいな人いたじゃないですか。
エンタツ・アチャコみたいな?
そうそう、でもここに出てくるのはそれじゃなくて。この本の頭のほうに出てくるそういう人の登場によって、あんな感じの時代か、ってイメージできるなって思ったんですよ。
これ僕ね、素直にいい本だと思ったんです。というのも、僕はクロニクルが好きなんですよ。年代記モノ。それが実際の史実に基づいたものなら、なお好きなんです。完全な架空の話じゃなくてね。この本のあとがきにも8割本当で2割創作ってありますし。
いけばなって、大きな文化としてなんとなく認識してたんですけど、これで背景を知って、より面白いなと思いましたよ。
いけばなにまつわる色々な繋がりとか、それぞれの人がどういう動き方、活躍をしたかって、情報があんまり出回ってないじゃないですか。でも、それって絶対面白いはずなんです。
そうなんですよね。中川幸夫華道家。極めて作家性の強い作風で知られる。池坊に属していたが、後に脱退。さんがこの中に出てくるんですけど。
うんうん。
ある先生から「何だこの作品は!」とか怒られるシーンがあるじゃないですか。それで納得いかない中川氏は流派を辞めてまでして「退会したから、展覧会に出させて下さい」って言う。すると「退会届を受理してないから駄目だ」って言われちゃうシーン。あれってただの嫌がらせだと思うんですけど、流派に属さないとこの業界では生きていけないみたいな背景は、一般的には知られてないと思うんですよね。
そうですね。
まぁ、そこまでなんですけどね、読んでるのはこの日、モグラはまだ読了していなかった。ちなみにタヌキは2周目に突入。(笑)。
それでね?、酷い目にあってね?。
そう。酷い目にあっちゃってるわけですよ。どこもそうなの?みたいな。なんかクールじゃないですよね、全体的に。
ドメスティックだから。『華日記』では、家元制度を「天皇制のミニチュア」とも。
そういうことですよね。
クールの真反対にある。
中川氏がこの後どういう動きをしていくか。その先はネタバレしちゃうから言わなくていいですからね。僕、まだ読んでないんだから。
でも、今の中川氏を、もう知ってるじゃないですか。
というよりも、こういう人だったんだっていう感じ。今に至るプロセスをどう歩いてきたか、筋道がこれに書いてあるわけでしょ。要するに、あの作風は昔からなんだって。びっくりしました。
そうそう。最初からこうだったんだってね。

家元制度という発明

情報が出回ってないといえば、お金の話。レッスン料だけじゃなく、段階段階で免状とかにまとまった金額が必要らしいって。
大事な収入源ですからね。師範代にいろいろな階級があるいわゆる段級位制は、日本ではあらゆる分野で採用されているが、単に技能の習熟度だけではなく、政治的なヒエラルキーを明確にするための装置として使われることも多い。のはそのためって話もありますよね。
なるほどね。
それぞれの階級で、その都度、免状の発行手数料が必要とか。お花を続けるにはお金が掛かる。しかも、先生によっても値段が違うみたいですよ。
でもまぁ、会員商売ってそういうのだもんね。
それぞれの思想や理念を掲げた母体を維持するには、それなりの盤石な資金源が必要なわけで。ただ、もともとカタチが曖昧なものだから、じゃあどこにお金を発生させるかっていうと、何かしらわかりやすい規範を作らないといけないんですね。その発明の一つが家元制度だったんですよ、華道は。
あ~、そういうことそういうこと。運営していく一つの仕組みね。でも、それをベンチャー企業がやってもなんとも思わないけど、いけばなとかこういうの…なんていうか、伝統文化になった瞬間、「え、そういうものなんだ?」っていうガッカリ感があるな…。
そもそも判定基準が明文化できないジャンルなんですよ。センスの世界だから。そこにそういう課金システムを持ち込んだという理不尽を、いかにバランスよく解決するかってことで、家元制度というのが有効だったってことですよね。結果的にね。
でも生徒が少なくなって、今までこんなおウチに住んでいたのに、これから小さなおウチに住まなきゃいけない、次の家元はもっともっと小さなおウチに住まなきゃいけない。簡単に言うとですよ。みんなそうなるけど、流派は存続していかなくちゃいけないですよね?
お世継ぎ問題は、いけばなブームの時でも常に付きまとっていたことで。経済的な潤いとは別の問題だし、しかも昔の人だから、オトコじゃなきゃダメとかね。池坊の次期家元も、550年の歴史で初の女性家元なんですって。一方で、同時に流派の拡大にも努めなければいけない。だから蒼風にしても、オブジェいけばなという「作品」を作っていたのに、それだけで稼いでいたわけじゃなくて、やっぱり大きな収入源は生徒さんからのお月謝やお免状料だったということみたいですね。

いけばなの未来

『華日記』、まだ最後まで読んでないから、どういう終わり方をするのかわからないけど、でも、最後のほうには流派存続についての議論が交わされていると想像してるんですよ。現代における存続をどうするかみたいな。その中で、いけばなをどうやってブランドとして維持していくか、さらに言うとブランドとして価値を高めていくかって。10年後20年後、どういうことになってんのっていう話だから。どうしていくんだろうね、各流派は。どう考えてるんだろうね。
とりあえず、流派が存続するのは家元がいればOKなんですよ。生徒が何をどんなに頑張っても、最初から最後まで流派は家元のもの流派の創立に関する法的な条件はないので、自分で流派を作れば誰でも家元になれる。華道に限らず、武道や芸道、スポーツにまでおびただしい数の流派があるのは、皆、天下を取りたいからだろうか。だから。いけばなの発展と流派の存続は、基本的には別問題なんです。
あ、そうだね。でも僕は、もう答えは一つしかないと思っていて。解散しかないと。
(爆笑)
だって普通に考えて、少子高齢化で生徒さんは減る一方じゃないですか。でも生徒がたくさんいて成り立っているわけでしょ。昔はどんどん生徒も増えただろうけど。いけばな自体、昔ほど身近にあるわけじゃなし、認知度をあげることとか、なんかしてるのかな? いけばなってこんなにいいんだよ?って。
かつては嫁入り道具の一つだったりして、昔はいけばながメジャーだったんですよね。いけばなを全く知らない人にわざわざ知ってもらうという場面や概念がなかったわけです。知らない人なんかいないから、世の中に。
それを今も引きずってるのかな。
たぶんね。…って僕が言うことじゃないけど(笑)。

床の間の先の先

そんな今、いけばなを習おう、始めようとする人は何がきっかけになるんでしょうね?
一番わかりやすいのはワタナベさんの例でしょ。いけばなイケてるっしょ!っていうノリ。
誰ですか?
友人のアートディレクター。
もともと花に興味があった人?
興味というか、やっぱりいけばなっていいよねっていう当たり前な感じ。だからそれは、ファッションとかの仕事をしていく中で、いけばなの感性が絶対に必要だよね、あったほうが面白いよねっていうようなノリです。軽いけど、でもそんな感じのノリがきっかけで始めるんじゃないかな。
絵画とかでも、演劇でも映画でもそうなんでしょうけど、なんかいい作品を見て、その時に自分がひたすら見る側、つまり受け手のままでいいと思うか、少しでも自分から発信できたらいいなと思うかですね。
そのきっかけになる場面が、いけばなは圧倒的に少なくなってしまったんでしょうね。
出回っていない。
見てもいけばなってことがわからない。お寺から始まって、床の間へ、庶民へ。さらに床の間から解放され、テーブルでもできて。で、今はどこを漂ってるのかね。
だから、気軽に触れたい人は青フラ青山フラワーマーケット。衰退の一途をたどる花屋業界において、同時代的なブランディングに成功したレアケース。で売ってるブーケを一つ買えばね。でもあれが出回りすぎたから、床の間に戻れって意見もありそうですが。
でも、床の間ないじゃん。
まぁ、ねえ。でも「伝統文化=カッコいい」という感覚は定番ですし。あと、敷居の低さっていうのが一つのきっかけになると思うんですよ、取り込むときの。そうすると、既製品を買うのが一番ラクじゃないですか。自分で作ろうとすると、ネットで検索するとか、もうちょっと本気の人はどっかに習いに行ってみようとか。その時に、伝統あるものは敷居が高いんですよ。実際は、駅前のカルチャースクールでフラワーアレンジメントやるのも、大きな流派の体験レッスン受けるのも同じはずなのに。それなのに、身近に感じる駅前を選ぶ。それはただの偏見なんですよ、きっと。…今、「同じはず」で思い出しましたけど、今の皇后が皇室に嫁ぐとき、当時の皇太子が「一般の家庭と同じなんだよ」って言ったそうです。どこがだよって話なんですけど(笑)。
そうだよね(笑)。
でもまあ、そういうことなんでしょう。垣根を越えた見せ方、アプローチがいけばなにも今後ますます必要になっていくんでしょうね。
このページの先頭へ